会社の合併を行う場合、株主総会の承認や合併契約書の作成、合併登記など、さまざまな手続きが必要になります。

その中でも、特に重要なのが「債権者保護手続き」です。

会社の合併についてご相談を受けると、次のような質問をいただくことがあります。

  • 債権者保護手続きとは何ですか?
  • なぜ官報に公告しなければならないのでしょうか?
  • 借入金がなくても手続きは必要ですか?
  • 100%子会社を吸収合併する場合も必要ですか?
  • 債権者が合併に反対した場合はどうなるのでしょうか?
  • 債権者保護手続きにはどのくらいの期間が必要ですか?

結論から申し上げますと、株式会社同士が合併する場合、原則として存続会社・消滅会社の双方で債権者保護手続きを行う必要があります。

また、債権者が異議を述べることができる期間として、1か月以上を確保しなければなりません。

今回は、会社の合併に必要な債権者保護手続きについて、司法書士が詳しく解説します。

1.合併の債権者保護手続きとは?

債権者保護手続きとは、会社の合併によって不利益を受ける可能性がある債権者を保護するための手続きです。

例えば、A株式会社がB株式会社を吸収合併する場合を考えてみましょう。

  • A株式会社:存続会社
  • B株式会社:消滅会社

吸収合併によってB株式会社は消滅し、B株式会社の資産や負債は原則としてすべてA株式会社に引き継がれます。

これを「包括承継」といいます。

ところが、債権者の立場からすると、会社が合併することによって、債権回収に影響が生じる可能性があります。

例えば、A株式会社は財務状況が良好である一方、B株式会社は多額の負債を抱えているとします。

A株式会社の取引先や金融機関は、これまで財務状況の良好なA株式会社を信用して取引していました。

しかし、合併によってB株式会社の負債もA株式会社に引き継がれることになります。

その結果、A株式会社の財務状況が悪化し、債権の回収に影響が生じるかもしれません。

このような事態に備えて、債権者に合併の内容を知らせ、異議を述べる機会を与えるのが債権者保護手続きです。

2.債権者保護手続きはどちらの会社が行う?

吸収合併では、原則として存続会社と消滅会社の双方が債権者保護手続きを行います。

例えば、A株式会社がB株式会社を吸収合併する場合です。

会社 債権者保護手続き
A株式会社(存続会社) 必要
B株式会社(消滅会社) 必要

消滅会社の債権者だけでなく、存続会社の債権者にも影響が生じる可能性があるためです。

会社法では、消滅株式会社について第789条、存続株式会社について第799条に債権者の異議に関する規定が設けられています。

なお、合同会社などの持分会社が合併に関係する場合には、別途、適用される規定を確認する必要があります。

3.債権者保護手続きの具体的な流れ

株式会社同士の吸収合併では、一般的に次のような流れで手続きを進めます。

① 債権者を確認する

まず、会社の債権者を確認します。

例えば、次のような人や会社が債権者に該当します。

  • 銀行などの金融機関
  • 商品を仕入れている取引先
  • 外注費の未払先
  • 会社にお金を貸している役員や株主
  • その他、会社に対して金銭などの請求権を有する人

ここで注意したいのは、債権者は銀行だけではないということです。

「銀行から借入れをしていないので、債権者はいません」

とおっしゃる経営者もいらっしゃいます。

しかし、買掛金や未払金がある場合には、その相手方も債権者になります。

債権者保護手続きを進める際には、借入金だけでなく、会社の債務全体を確認する必要があります。

② 官報に公告する

次に、官報に合併に関する公告を掲載します。

官報とは、国が発行する公的な広報紙です。

合併の債権者保護手続きでは、官報公告が必要になります。

公告には、主に次のような事項を記載します。

  • 合併をする旨
  • 合併当事会社の商号・住所など
  • 合併当事会社の計算書類に関する法定事項
  • 債権者が一定期間内に異議を述べることができる旨

なお、公告の記載事項は、存続会社と消滅会社で異なる部分があります。

また、官報公告は申し込んだその日に掲載されるわけではありません。

掲載までに一定の時間が必要となるため、合併の日程を決める際には注意が必要です。

③ 知れている債権者に個別催告する

官報公告に加えて、原則として、会社が把握している債権者に対して個別に催告を行います。

これを「個別催告」といいます。

例えば、会社が銀行から借入れをしている場合には、その銀行に対して合併することを知らせ、異議があれば一定期間内に申し出るよう催告します。

個別催告は、実務上、書面を郵送する方法などで行われます。

後日、適切に催告したことを証明できるよう、発送記録や書面の控えを残しておくことが重要です。

なお、一定の要件を満たして官報公告に加えた公告を行う場合には、個別催告を省略できることがあります。

この点については後ほど説明します。

④ 1か月以上の異議申述期間を設ける

債権者保護手続きでは、債権者が合併に異議を述べるための期間を設けなければなりません。

この期間は、1か月を下回ることができません。

例えば、11月1日に官報公告が掲載された場合、法律上必要な期間を確保したうえで異議申述の期限を設定します。

期間の計算は民法の規定などに従う必要があるため、実際の期限は個別に確認します。

また、個別催告を行う場合には、催告の時期にも注意が必要です。

官報公告だけを早く行っても、個別催告が遅れれば、予定していた合併日までに必要な手続きが完了しない可能性があります。

⑤ 債権者から異議があった場合に対応する

異議申述期間内に債権者から異議が出された場合には、法律に従って対応する必要があります。

具体的には、原則として次のいずれかの対応が必要です。

  1. 債権者に対して弁済する。
  2. 相当の担保を提供する。
  3. 債権者に弁済を受けさせるため、信託会社等に相当の財産を信託する。

ただし、合併によってその債権者を害するおそれがない場合には、これらの対応を要しないことがあります。

単に異議が出されたからといって、必ず合併ができなくなるわけではありません。

しかし、異議への対応が必要になることで、合併の日程に影響する可能性があります。

4.債権者が異議を述べなかった場合はどうなる?

債権者が所定の期間内に異議を述べなかった場合には、法律上、その債権者は合併を承認したものとみなされます。

したがって、すべての債権者から個別に承諾書を取得する必要があるわけではありません。

ただし、個別催告が必要な債権者に催告していなかった場合など、手続きに不備があると問題になります。

債権者保護手続きでは、単に異議が出なかったということだけでなく、法律に従った公告や催告を行ったことが重要です。

5.100%子会社を吸収合併する場合も債権者保護手続きは必要?

これは、実務でも質問されることがある内容です。

例えば、A株式会社がB株式会社の株式を100%所有しているとします。

A株式会社がB株式会社を吸収合併する場合、一定の要件を満たせば、B株式会社では略式合併として株主総会の承認を省略できることがあります。

また、A株式会社でも簡易合併の要件を満たせば、原則として株主総会の承認を省略できる場合があります。

それでは、債権者保護手続きも省略できるのでしょうか。

結論として、100%親子会社の合併であっても、原則として債権者保護手続きは必要です。

株主総会の承認を省略できることと、債権者保護手続きを省略できることは別の問題だからです。

親会社と子会社の間の合併であっても、債権者に不利益が生じる可能性があります。

そのため、原則として双方の会社で官報公告などの手続きを行う必要があります。

6.借入金がない会社でも債権者保護手続きは必要?

「当社には銀行借入れがありません。債権者保護手続きを省略できませんか?」

このような質問をいただくことがあります。

しかし、銀行借入れがないことと、債権者が存在しないことは同じではありません。

買掛金や未払費用、役員からの借入金などがある場合、その相手方は債権者に該当します。

また、仮に個別催告の対象となる債権者が存在しない場合であっても、株式会社同士の合併では原則として官報公告が必要です。

したがって、借入金がないから債権者保護手続きが不要になる、というわけではありません。

7.個別催告を省略できる場合とは?

債権者保護手続きでは、原則として官報公告と個別催告の両方が必要です。

しかし、一定の条件を満たせば、個別催告を省略できる制度があります。

一般に「ダブル公告」と呼ばれる方法です。

具体的には、官報公告に加えて、会社の定款に定められた公告方法に従い、次のいずれかの方法で公告する場合です。

  • 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙による公告
  • 電子公告

例えば、会社の定款で公告方法を電子公告と定めている場合、官報公告と電子公告を併用することによって、合併における個別催告を省略できることがあります。

ただし、注意したいのは、官報公告を省略できるわけではないという点です。

また、会社の公告方法が官報となっている場合、単にホームページに合併の案内を掲載しただけでは、法律上のダブル公告にはなりません。

定款や登記事項を確認したうえで、適切な方法を選択する必要があります。

8.銀行から合併の承諾を得ていても官報公告は必要?

銀行借入れがある会社の合併では、事前に金融機関へ相談することが一般的です。

融資契約によっては、合併に関する事前承諾や通知が必要とされていることもあります。

そこで、

「銀行から合併の承諾をもらったので、債権者保護手続きは不要ではないでしょうか?」

と考える方もいらっしゃいます。

しかし、金融機関との契約上の承諾と、会社法上の債権者保護手続きは別のものです。

銀行が合併に同意していたとしても、それだけで官報公告を省略できるわけではありません。

また、銀行以外にも債権者が存在する可能性があります。

合併を進める際には、金融機関との調整と会社法上の手続きを区別して考える必要があります。

9.債権者保護手続きにはどのくらいの期間がかかる?

会社の合併では、債権者保護手続きの期間を考慮してスケジュールを組む必要があります。

法律上、債権者が異議を述べる期間は1か月以上です。

しかし、実際には官報公告の申込みから掲載までにも時間がかかります。

そのため、債権者保護手続きだけでも、準備期間を含めて1か月を超える日程を見込む必要があります。

例えば、次のような流れが考えられます。

時期 手続き
11月上旬 合併契約書の作成、債権者の確認
11月中旬 官報公告の掲載、個別催告
12月中旬以降 異議申述期間の満了
12月下旬 その他の要件を満たしたうえで合併の効力発生
効力発生後 合併登記の申請

※上記はあくまで日程の一例です。実際の公告掲載日、期間計算、株主総会などの手続きによって日程は変わります。

会社の合併では、合併契約書を作成して株主総会で承認すれば、すぐに合併できるわけではありません。

特に、合併の効力発生日が決まっている場合には、逆算して手続きを進める必要があります。

10.債権者保護手続きを忘れた場合はどうなる?

会社の合併で注意したいのが、債権者保護手続きの失念です。

例えば、合併契約書を作成し、株主総会の承認も得ていたとします。

しかし、官報公告を行うことを忘れていた場合、どうなるのでしょうか。

債権者保護手続きは、会社法で定められた重要な手続きです。

そのため、必要な手続きを行っていない場合には、予定していた合併の効力発生日を見直すなどの対応が必要になる可能性があります。

また、債権者保護手続きに重大な不備がある場合には、合併の効力が法律上争われる原因にもなり得ます。

会社の合併では、登記申請の際に債権者保護手続きを行ったことを証する書面の提出も必要になります。

したがって、債権者保護手続きは、合併登記の直前になって初めて検討するのではなく、合併の計画段階から準備することが重要です。

11.債権者保護手続きと合併登記の関係

会社の合併では、債権者保護手続きが完了した後、その他の法定要件を満たして合併の効力が発生し、合併登記を申請することになります。

吸収合併の場合、存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記を行います。

合併登記の申請では、債権者保護手続きを適切に実施したことを証する書面が必要になります。

具体的には、手続きの方法に応じて、次のような書面を準備します。

  • 官報公告を行ったことを証する書面
  • 個別催告を行ったことを証する書面
  • ダブル公告を行った場合には、その公告を証する書面
  • 債権者から異議があった場合には、必要な対応を行ったことなどを証する書面

なお、実際に必要となる添付書面は、合併の種類や当事会社の状況によって異なります。

合併登記を担当する司法書士と事前に確認しながら進めることをおすすめします。

12.会社の合併は早めに司法書士へ相談することが重要

会社の合併には、さまざまな手続きが必要です。

特に債権者保護手続きは、法律で定められた期間があるため、短期間で完了させることはできません。

例えば、

「来月1日付で子会社を吸収合併したい」

というご相談をいただいても、債権者保護手続きが必要な場合には、希望する日程に間に合わないことがあります。

また、合併には債権者保護手続き以外にも、株主総会の承認、事前開示書類の備置き、合併登記などの手続きがあります。

そのため、合併の効力発生日から逆算して、全体のスケジュールを組むことが大切です。

司法書士に早い段階で相談することにより、必要な手続きを整理し、日程に余裕を持って準備を進めることができます。

まとめ|合併の債権者保護手続きは省略できない重要な手続き

会社の合併における債権者保護手続きについて解説しました。

重要なポイントは次のとおりです。

  1. 株式会社同士の吸収合併では、原則として存続会社・消滅会社の双方で債権者保護手続きが必要。
  2. 官報公告と、知れている債権者への個別催告が原則として必要。
  3. 債権者が異議を述べる期間は1か月以上。
  4. 官報公告と所定の電子公告等を併用すれば、個別催告を省略できる場合がある。
  5. 100%親子会社の合併でも、原則として債権者保護手続きは必要。
  6. 借入金がない会社でも、原則として官報公告は必要。
  7. 債権者保護手続きに不備があると、合併の日程や登記に影響する可能性がある。

会社の合併は、単に会社を一つにまとめるだけの手続きではありません。

株主、債権者、従業員など、多くの関係者に影響を及ぼす重要な組織再編です。

そのため、法律で定められた手続きを確実に行うことが大切です。

当事務所では、株式会社の吸収合併や新設合併など、会社の組織再編に関する登記手続きを取り扱っています。

合併契約書の作成、債権者保護手続き、合併登記などについてお困りの場合には、お気軽にご相談ください。