簡易合併とは?
組織再編
2026年10月29日
会社の合併を検討している経営者の方から、次のようなご相談をいただくことがあります。
「会社を合併する場合、必ず株主総会を開催しなければならないのでしょうか?」
「親会社が子会社を吸収合併する場合、手続きを簡単にすることはできますか?」
「簡易合併と略式合併は何が違うのでしょうか?」
通常、株式会社が吸収合併を行う場合には、原則として株主総会で合併契約の承認を受ける必要があります。
しかし、一定の要件を満たす場合には、存続会社の株主総会の承認を省略できる制度があります。
これが「簡易合併」です。
今回は、簡易合併の仕組みや適用要件、手続きの流れ、略式合併との違いについて、司法書士がわかりやすく解説します。
1.簡易合併とは?
簡易合併とは、一定の要件を満たす吸収合併について、存続会社の株主総会による合併契約の承認を省略できる制度です。
会社法第796条第2項に規定されています。
例えば、A株式会社がB株式会社を吸収合併する場合を考えてみましょう。
【合併前】
A株式会社(存続会社)
B株式会社(消滅会社)
↓
【合併後】
A株式会社のみ存続
B株式会社は合併によって消滅し、その権利義務はA株式会社に包括的に承継されます。
通常、このような吸収合併では、原則としてA株式会社とB株式会社の双方で株主総会の承認が必要です。
しかし、合併の規模が存続会社にとって比較的小さい場合などには、A株式会社の株主総会の承認を省略できることがあります。
これが簡易合併です。
ただし、簡易合併によって省略できるのは、原則として存続会社側の株主総会の承認です。
消滅会社側の株主総会については、別途、略式合併などの要件を満たさない限り、原則として承認が必要になります。
2.なぜ簡易合併という制度があるのか?
会社の合併は、株主にとって重要な事項です。
そのため、原則として株主総会の承認が必要とされています。
しかし、存続会社にとって影響が比較的小さい合併についてまで、必ず株主総会を開催しなければならないとすると、会社の組織再編を円滑に進めることが難しくなります。
そこで、一定の要件を満たす場合には、株主総会の承認を省略できる制度が設けられています。
簡易合併を利用することで、株主総会の開催に必要な手間や時間を軽減できる場合があります。
ただし、合併そのものが簡単になるわけではありません。
合併契約の締結、債権者保護手続き、合併登記などは、原則として通常の吸収合併と同様に必要になります。
3.簡易合併の要件とは?
簡易合併を利用するための代表的な要件が「5分の1基準」です。
会社法第796条第2項では、合併対価について法令に従って算定した額が、存続会社の純資産額の5分の1以下である場合、原則として株主総会の承認を省略できるとしています。
5分の1基準とは?
例えば、次のような会社があるとします。
A株式会社(存続会社)
- 純資産額:1億円
B株式会社(消滅会社)
- B社の株主に交付する合併対価の算定額:1,000万円
この場合、合併対価の算定額1,000万円は、存続会社の純資産額1億円の10%に相当します。
したがって、5分の1(20%)以下という数値基準を満たします。
ただし、ここで注意が必要です。
5分の1以下であれば、必ず簡易合併ができるわけではありません。
会社法では、簡易合併を利用できない場合が定められています。
また、定款で5分の1よりも低い割合を定めている場合には、その割合が適用されます。
なお、合併対価の算定方法は、交付する株式や金銭などの種類によって異なります。
そのため、単純に消滅会社の資産額や買収価格だけで判断することはできません。
4.簡易合併ができない場合とは?
5分の1基準を満たしていても、次のような場合には簡易合併を利用できないことがあります。
① 非公開会社が譲渡制限株式を交付する場合
存続会社が非公開会社であり、消滅会社の株主に対して存続会社の譲渡制限株式を交付する場合には、簡易合併の規定は適用されません。
非公開会社とは、発行するすべての株式について譲渡制限が設けられている株式会社をいいます。
中小企業の多くは非公開会社に該当します。
例えば、A株式会社が非公開会社であり、B株式会社を吸収合併する際に、B株式会社の株主にA株式会社の株式を交付する場合です。
この場合、A株式会社に新たな株主が加わることになります。
非公開会社では株主構成が重要な意味を持つため、株主総会による承認が必要とされています。
ただし、非公開会社であっても、金銭を合併対価として交付する場合や無対価合併の場合などには、他の要件を満たせば簡易合併を利用できる可能性があります。
② 合併差損が生じる場合
会社法第795条第2項各号に規定する一定の合併差損が生じる場合には、簡易合併を利用できません。
例えば、合併によって承継する債務の額が、承継する資産の額を上回る場合などです。
ただし、会社法上の合併差損と会計上の損失は、必ずしも同じ意味ではありません。
そのため、合併差損に該当するかどうかについては、会社の財務状況や合併条件を確認する必要があります。
③ 一定数の株主が反対した場合
簡易合併の要件を満たしていても、一定数の株主が合併に反対した場合には、株主総会の承認が必要になります。
会社法第796条第3項では、法務省令で定める数の株式を有する株主が、所定の期間内に反対の意思を通知した場合、存続会社は株主総会の承認を受けなければならないとされています。
反対通知の期間は、所定の株主への通知または公告の日から2週間以内です。
したがって、簡易合併を予定していても、株主の反対状況によっては株主総会を開催する必要があります。
5.100%子会社を吸収合併する場合は?
中小企業の組織再編でよくあるのが、親会社が100%子会社を吸収合併するケースです。
例えば、次のような場合です。
A株式会社(親会社)
↓ 100%出資
B株式会社(子会社)
A株式会社がB株式会社の発行済株式をすべて所有しているとします。
この場合、A株式会社がB株式会社を吸収合併する際には、通常、合併対価を交付しない無対価合併とすることが考えられます。
このようなケースでは、存続会社と消滅会社で異なる制度を利用できる場合があります。
① 親会社A株式会社では簡易合併
A株式会社がB株式会社を無対価で吸収合併する場合、合併対価に関する5分の1基準を満たします。
したがって、合併差損が生じないことなど、その他の要件を満たせば、A株式会社では簡易合併によって株主総会の承認を省略できます。
② 子会社B株式会社では略式合併
一方、B株式会社では、親会社であるA株式会社が議決権を100%保有しています。
この場合、会社法第784条第1項の特別支配関係に該当するため、原則として略式合併によって株主総会の承認を省略できます。
つまり、100%親子会社間の無対価吸収合併では、存続会社で簡易合併、消滅会社で略式合併を利用することにより、双方の株主総会の承認を省略できる場合があります。
ただし、債権者保護手続きや合併登記などは必要になります。
6.簡易合併と略式合併の違い
簡易合併と混同されやすい制度として、略式合併があります。
どちらも一定の場合に株主総会の承認を省略できる制度ですが、適用要件が異なります。
簡易合併
簡易合併は、合併対価の規模などに着目した制度です。
存続会社にとって合併の規模が比較的小さい場合に、株主総会の承認を省略できることがあります。
根拠条文は会社法第796条第2項です。
略式合併
略式合併は、会社間の特別支配関係に着目した制度です。
例えば、一方の会社が他方の会社の議決権の90%以上を保有するなど、法令上の特別支配関係がある場合に利用できることがあります。
略式合併は、存続会社側でも消滅会社側でも、一定の要件を満たせば利用できます。
ただし、非公開会社が譲渡制限株式を交付する場合など、適用が制限されるケースもあります。
簡易合併と略式合併の比較
| 項目 | 簡易合併 | 略式合併 |
|---|---|---|
| 判断基準 | 合併対価の規模など | 会社間の特別支配関係 |
| 主な要件 | 5分の1基準など | 議決権90%以上の支配関係など |
| 株主総会を省略できる会社 | 存続会社 | 存続会社または消滅会社 |
| 主な根拠条文 | 会社法796条2項 | 会社法784条1項・796条1項 |
このように、両者は似ていますが、法律上は異なる制度です。
7.簡易合併の手続きの流れ
簡易合併を行う場合の一般的な手続きは、次のとおりです。
STEP1 合併条件の検討
まず、合併する会社同士で、合併の内容を検討します。
具体的には、次のような事項です。
- どちらの会社を存続会社にするか
- 合併の効力発生日
- 合併対価の内容
- 合併後の役員構成
- 合併による資本金の変更
- 従業員や取引先への対応
また、簡易合併の要件を満たしているかどうかも確認します。
STEP2 合併契約の締結
合併する会社同士で吸収合併契約を締結します。
合併契約には、会社法で定められた事項を記載する必要があります。
なお、簡易合併によって株主総会の承認を省略できる場合でも、取締役会設置会社では、原則として取締役会で合併契約の締結を決定する必要があります。
STEP3 事前開示書類の備置き
合併契約の内容などを記載した書類を、法令で定められた期間、本店に備え置きます。
株主や債権者などが合併の内容を確認できるようにするための手続きです。
STEP4 株主への通知または公告
存続会社では、原則として株主に対して合併を行う旨などを通知または公告する必要があります。
簡易合併の場合、所定の期間内に一定数の株主から反対通知があったときは、株主総会の承認が必要になります。
したがって、簡易合併の要件を満たしていても、株主に対する手続きを確認する必要があります。
STEP5 債権者保護手続き
合併では、原則として債権者保護手続きが必要です。
具体的には、官報公告や知れている債権者への個別催告などを行います。
債権者が異議を述べることができる期間は、1か月以上設ける必要があります。
なお、法令で定められた方法による公告を行うことで、個別催告を省略できる場合があります。
STEP6 合併の効力発生
必要な手続きを完了すると、合併契約で定めた効力発生日に吸収合併の効力が発生します。
消滅会社の権利義務は、存続会社に包括的に承継されます。
STEP7 合併登記の申請
吸収合併の効力発生日から2週間以内に、原則として存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記を申請します。
簡易合併の場合には、株主総会議事録に代えて、簡易合併の要件を満たしていることを証する書面などが必要になります。
8.簡易合併の登記に必要な書類
簡易合併による登記申請では、合併の内容に応じて、次のような書類が必要になります。
① 吸収合併契約書
② 簡易合併の要件を満たすことを証する書面
③ 債権者保護手続きに関する書面
④ 消滅会社側の合併承認手続きに関する書面
⑤ 資本金の額の計上に関する書面
⑥ その他、合併の内容に応じた添付書面
簡易合併では、存続会社の株主総会議事録を省略できる場合があります。
ただし、簡易合併の要件を満たしていることを証明する必要があるため、通常の合併登記よりも必ず書類が少なくなるとは限りません。
9.簡易合併でも債権者保護手続きは省略できない
簡易合併について、特に注意していただきたいことがあります。
それは、簡易合併は、合併手続きのすべてを簡略化する制度ではないということです。
簡易合併によって省略できるのは、一定の場合における存続会社の株主総会の承認です。
債権者保護手続きまで省略できるわけではありません。
そのため、簡易合併であっても、合併の効力発生日までに一定の期間が必要になります。
例えば、債権者保護手続きでは、1か月以上の異議申述期間を設けなければなりません。
合併のスケジュールを検討する際には、この期間を考慮する必要があります。
10.簡易合併は司法書士に相談できる?
簡易合併を利用できるかどうかについては、会社法に基づく専門的な判断が必要になります。
特に、次のような事項については慎重な確認が必要です。
- 合併対価が5分の1基準を満たしているか
- 存続会社が非公開会社である場合の制限
- 合併差損が生じないか
- 一定数の株主による反対がないか
- 略式合併を利用できるか
- 債権者保護手続きに問題がないか
- 合併登記に必要な書類が整っているか
司法書士は、会社の合併に伴う商業登記手続きの専門家です。
また、合併には税務上の問題や許認可の承継なども関係するため、必要に応じて税理士や行政書士などの専門家と連携することが重要です。
11.まとめ|簡易合併は株主総会を省略できる制度
簡易合併とは、一定の要件を満たす吸収合併について、存続会社の株主総会による合併契約の承認を省略できる制度です。
代表的な要件として、合併対価に関する5分の1基準があります。
ただし、5分の1基準を満たしていても、非公開会社が譲渡制限株式を交付する場合や、一定の合併差損が生じる場合などには、簡易合併を利用できません。
また、一定数の株主が反対した場合には、株主総会の承認が必要になります。
一方、100%親子会社間の無対価吸収合併では、存続会社で簡易合併、消滅会社で略式合併を利用することにより、双方の株主総会の承認を省略できる場合があります。
ただし、簡易合併であっても、合併契約の締結や債権者保護手続き、合併登記などは必要になります。
会社の合併を円滑に進めるためには、事前に手続きの内容やスケジュールを確認することが重要です。
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