介護事業の会社設立

介護事業について

介護事業の会社設立で注意すべき10のポイント


介護事業を始めるにあたって

介護事業で独立・開業を考えている方から、会社設立についてご相談をいただくことがあります。

「訪問介護の会社を設立したいのですが、何から始めればよいでしょうか?」

「介護事業は株式会社と合同会社のどちらがよいのでしょうか?」

「会社を設立すれば、すぐに介護事業を始められますか?」

「介護事業の会社設立では、資本金はいくら必要でしょうか?」

介護事業の会社設立では、一般的な会社設立とは異なる注意点があります。

特に重要なのは、会社設立と介護保険法に基づく事業者指定を一体的に考えることです。

株式会社や合同会社を設立しただけでは、介護保険サービスを提供できるとは限りません。

また、会社設立時の定款の事業目的や役員構成などによっては、後から変更登記が必要になることもあります。

今回は、介護事業の会社設立で注意すべき10のポイントについて、司法書士がわかりやすく解説します。

1.介護事業を始めるには会社設立が必要?

介護保険法に基づく介護サービス事業を始める場合、原則として法人格が必要になります。

例えば、次のような事業です。

  • 訪問介護事業
  • 通所介護事業(デイサービス)
  • 訪問入浴介護事業
  • 訪問看護事業
  • 福祉用具貸与事業
  • 特定福祉用具販売事業
  • 居宅介護支援事業
  • 認知症対応型共同生活介護事業(グループホーム)

これらの事業では、原則として法人格を有する事業者が、必要な指定を受けてサービスを提供します。

ただし、医療機関や薬局が行う一部のサービスなどには、法人格に関する例外があります。

会社を設立すれば介護事業を始められる?

ここで注意していただきたいのは、会社設立と介護事業者の指定は別の手続きであるということです。

例えば、訪問介護事業を始めるために株式会社を設立したとします。

会社設立登記が完了すれば、株式会社としての法人格は取得できます。

しかし、それだけで介護保険法に基づく訪問介護サービスを提供できるわけではありません。

別途、指定権者に対して申請を行い、訪問介護事業者としての指定を受ける必要があります。

つまり、介護事業では「会社設立」と「介護事業者の指定」という2つの手続きを考える必要があるのです。

2.株式会社と合同会社のどちらを選ぶべきか?

介護事業の会社設立では、株式会社と合同会社のどちらにするかというご相談もあります。

結論から申し上げると、訪問介護や通所介護など、多くの介護サービスでは株式会社でも合同会社でも事業者指定を受けることが可能です。

ただし、介護老人福祉施設など、法人形態や開設主体に制限があるサービスもあります。

そのため、どのような介護事業を行うのかによって、適切な法人形態を選択する必要があります。

株式会社のメリット

株式会社には、次のようなメリットがあります。

① 社会的な認知度が高い

② 株式を利用した資金調達が可能

③ 将来的に事業を拡大しやすい

④ 株式譲渡による事業承継を検討できる

介護事業では、従業員の採用や金融機関からの融資などが重要になります。

そのため、株式会社を選択する方も多くいらっしゃいます。

ただし、株式会社だからという理由だけで、採用や融資が有利になるとは限りません。

合同会社のメリット

合同会社には、次のようなメリットがあります。

① 株式会社より設立費用を抑えられる

② 定款認証が不要

③ 原則として役員の任期がない

④ 会社内部の意思決定について柔軟な設計が可能

少人数で訪問介護事業を始める場合などには、合同会社も選択肢になります。

株式会社と合同会社の設立費用の違い

会社設立時の登録免許税は、原則として次のようになります。

項目株式会社合同会社
登録免許税最低15万円最低6万円
定款認証必要不要
定款認証手数料条件により異なる不要
役員の任期原則あり原則なし
介護事業者指定対象事業で取得可能対象事業で取得可能

株式会社では、登録免許税のほかに定款認証費用などが発生します。

なお、電子定款を利用する場合には、紙の定款で必要となる収入印紙代4万円を節約できます。

どちらがおすすめ?

将来的に複数の介護事業所を運営したい場合や、外部からの出資を受けることを考えている場合には、株式会社が適していることがあります。

一方、小規模な事業所を運営し、設立費用を抑えたい場合には合同会社も有力な選択肢です。

ただし、将来の事業展開や事業承継の方法も考慮して選ぶことが重要です。

3.定款の事業目的は特に重要

介護事業の会社設立で、特に注意していただきたいのが定款の事業目的です。

介護保険法に基づく事業者指定を受ける際には、原則として、定款や登記事項証明書から申請する事業を行うことが確認できる必要があります。

そのため、会社設立時に事業目的を適切に定めておくことが重要です。

介護事業の事業目的の記載例

例えば、次のような記載が考えられます。

訪問介護事業を行う場合

「介護保険法に基づく訪問介護事業」

通所介護事業を行う場合

「介護保険法に基づく通所介護事業」

居宅介護支援事業を行う場合

「介護保険法に基づく居宅介護支援事業」

福祉用具貸与事業を行う場合

「介護保険法に基づく福祉用具貸与事業」

介護予防サービスを行う場合

「介護保険法に基づく介護予防サービス事業」

ただし、実際に必要となる記載は、サービスの種類や指定権者の取扱いによって異なります。

例えば、地域密着型通所介護や介護予防・日常生活支援総合事業を行う場合には、それぞれの事業内容が明確になるように目的を定める必要があります。

事業目的が不足しているとどうなる?

例えば、訪問介護事業を行うために株式会社を設立したとします。

その後、デイサービス事業も始めることになりました。

しかし、定款の事業目的には訪問介護事業しか記載されていませんでした。

この場合、事業目的の内容によっては、デイサービスの指定申請に先立って目的変更登記が必要になることがあります。

株式会社の目的変更登記には、登録免許税3万円がかかります。

司法書士に依頼する場合には、別途報酬も必要です。

そのため、会社設立の段階で将来の事業展開も考慮しておくことをおすすめします。

ただし、事業目的を多く記載すればよいというわけではありません。

実際に行う事業や将来の計画を踏まえて、適切に定めることが重要です。

4.資本金はいくらにすればよい?

介護事業の会社設立では、資本金についても慎重に検討する必要があります。

株式会社も合同会社も、会社法上は原則として資本金1円から設立することが可能です。

また、訪問介護や通所介護などの事業者指定について、一般的に一律の最低資本金額が定められているわけではありません。

しかし、だからといって資本金1円で会社を設立することをおすすめするわけではありません。

介護事業では開業資金が重要

介護事業を始めるためには、さまざまな費用が発生します。

例えば、次のような費用です。

  • 事業所の賃料や敷金
  • 事務所の内装工事費
  • 机やパソコンなどの備品購入費
  • 介護用品の購入費
  • 車両の購入費
  • 従業員の採用費
  • 従業員の給与
  • 社会保険料
  • 広告宣伝費

特に、介護事業では人件費の負担が大きくなる傾向があります。

介護報酬の入金時期にも注意

介護保険サービスでは、サービスを提供してから介護報酬が入金されるまでに一定の期間があります。

そのため、事業開始後すぐに十分な収入が得られるとは限りません。

例えば、従業員を採用して訪問介護事業を開始した場合、介護報酬が入金される前でも給与や社会保険料などの支払いが発生します。

利用者が少ない開業当初は、売上が十分に確保できない可能性もあります。

そのため、資本金を決める際には、会社設立費用だけでなく、開業後の運転資金も考慮することが重要です。

なお、資本金の額によって税務上の取扱いが異なる場合もあるため、必要に応じて税理士に相談することをおすすめします。

5.役員構成と欠格事由に注意する

会社設立では、誰を取締役や代表取締役にするのかを決める必要があります。

介護事業の場合には、役員構成についても注意が必要です。

なぜなら、介護保険法では、申請者や役員等について一定の欠格事由が定められているからです。

欠格事由とは?

欠格事由とは、一定の事情に該当する場合に、介護事業者としての指定を受けられない要件をいいます。

例えば、介護保険法に基づく指定取消処分を受けた場合や、一定の法令違反がある場合などです。

ただし、欠格事由に該当するかどうかは、処分の内容や時期、関係する役員の立場などによって異なります。

そのため、過去に介護事業に関係していた方を役員に迎える場合などには、必要に応じて事前に確認することが重要です。

会社設立ができても事業者指定を受けられない場合がある

会社法上、取締役に就任できることと、介護保険法上の指定要件を満たすことは別問題です。

例えば、会社設立登記自体は完了しても、役員等が介護保険法上の欠格事由に該当する場合には、事業者指定を受けられない可能性があります。

そのため、会社設立前に役員構成を確認しておくことが重要です。

6.事業所の所在地は慎重に決める

会社設立では、本店所在地を決める必要があります。

自宅を本店所在地として会社を設立することも可能です。

しかし、介護事業を行う場合には、会社の本店所在地と介護サービスを提供する事業所の所在地を区別して考える必要があります。

本店と介護事業所は同じ場所でなければならない?

必ずしも同じ場所である必要はありません。

例えば、社長の自宅を会社の本店所在地とし、別の場所に訪問介護事業所を設けることも考えられます。

ただし、介護事業所については、サービスの種類ごとに設備基準などが定められています。

訪問介護事業所の場合

訪問介護事業では、事業運営に必要な事務スペースや設備・備品などを確保する必要があります。

また、利用者の個人情報を適切に管理できる環境も重要です。

デイサービスの場合

通所介護事業では、食堂や機能訓練室、相談室、静養室、事務室など、サービスの種類や規模に応じた設備基準があります。

また、建物の用途や消防設備、建築基準法上の規制などについても確認が必要です。

物件を契約する前に確認する

介護事業で注意したいのが、物件を借りた後に設備基準を満たしていないことが判明するケースです。

例えば、デイサービスを開設するために物件を借りたものの、必要な設備を設置できないことがわかった場合です。

このような事態を防ぐためにも、物件の賃貸借契約を締結する前に、指定権者などに相談しておくことをおすすめします。

7.人員基準を満たせるか確認する

介護事業では、サービスの種類ごとに人員基準が定められています。

例えば、訪問介護事業では、管理者やサービス提供責任者、訪問介護員等の配置が必要になります。

また、通所介護事業では、管理者、生活相談員、看護職員、介護職員、機能訓練指導員などについて、事業所の規模やサービス内容に応じた配置基準があります。

社長が管理者を兼ねることはできる?

一定の要件を満たせば、会社の代表者が介護事業所の管理者を兼ねることは可能です。

ただし、管理者としての職務に支障がないことなどが必要です。

また、管理者と他の職種との兼務についても、サービスの種類や人員基準によって取扱いが異なります。

資格を持っていれば必ず指定を受けられる?

介護福祉士などの資格を持っている方が会社を設立しても、それだけで介護事業者の指定を受けられるわけではありません。

必要な人員数や勤務形態、資格要件などを満たす必要があります。

そのため、会社設立前に必要な人員を確保できるか確認しておくことが重要です。

8.会社設立から事業者指定までのスケジュールに注意

介護事業を始める場合、会社設立と事業者指定のスケジュールを考える必要があります。

一般的には、次のような流れになります。

STEP1 事業内容を決める

まず、どのような介護サービスを提供するのかを決めます。

訪問介護なのか、通所介護なのか、居宅介護支援なのかによって、必要な指定や人員・設備基準が異なります。

STEP2 指定権者に事前相談する

予定している事業について、指定権者に必要な要件や申請スケジュールを確認します。

サービスによっては、公募や事前協議などが必要になる場合もあります。

STEP3 会社設立の準備をする

商号、本店所在地、事業目的、資本金、役員構成などを決めます。

STEP4 会社設立登記を申請する

株式会社または合同会社の設立登記を法務局に申請します。

会社は、設立登記によって成立します。

STEP5 事業所や人員を確保する

事業所の設備を整え、必要な資格を持つ職員などを確保します。

STEP6 介護事業者の指定申請を行う

必要書類を準備し、指定権者に申請します。

STEP7 指定を受けて事業を開始する

人員・設備・運営基準などの審査を経て、指定を受けた後に介護保険サービスを開始します。

なお、指定申請の受付時期や指定日は、自治体やサービスの種類によって異なります。

そのため、希望する開業日から逆算して準備を進めることが重要です。

9.介護事業の会社設立後に必要な手続き

会社設立登記が完了した後にも、さまざまな手続きが必要になります。

例えば、次のようなものがあります。

税務署への届出

法人設立届出書など、税務関係の届出が必要になります。

社会保険への加入

株式会社や合同会社は、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所となります。

従業員を雇用する場合には、労働保険や雇用保険についても確認する必要があります。

法人口座の開設

介護報酬の入金や経費の支払いなどに利用する法人口座を開設します。

金融機関によっては、口座開設までに一定の期間がかかることがあります。

介護事業者の指定申請

介護保険サービスを開始するために必要な指定申請を行います。

その他の届出

事業内容によっては、消防関係の届出や建築関係の手続きなどが必要になる場合があります。

このように、介護事業では会社設立登記が完了した後にも、多くの準備が必要になります。

10.介護事業の会社設立でよくある失敗例

ここでは、介護事業の会社設立で注意したい事例をご紹介します。

失敗例① 定款の事業目的が不足していた

訪問介護事業を始めるために会社を設立したものの、定款の事業目的が指定申請に適した内容になっていませんでした。

そのため、目的変更登記が必要になり、余分な費用と時間がかかってしまいました。

失敗例② 事業所の設備基準を満たしていなかった

デイサービスを開設するために物件を借りたものの、必要な設備基準を満たしていないことが判明しました。

結果として、追加工事や物件の変更が必要になりました。

失敗例③ 必要な人員を確保できなかった

会社設立後に介護職員などを募集したものの、必要な人員を確保できませんでした。

そのため、予定していた時期に事業者指定を受けることができませんでした。

失敗例④ 開業資金が不足した

会社設立費用や事業所の準備費用は確保していたものの、開業後の運転資金が不足しました。

介護報酬が入金されるまでの人件費などを十分に考慮していなかったことが原因です。

失敗例⑤ 会社設立と指定申請のスケジュールが合わなかった

会社設立登記は完了したものの、指定申請の受付期限に間に合わず、予定していた開業日を延期することになりました。

このような問題を防ぐためにも、会社設立前から事業者指定を見据えた準備を行うことが重要です。

11.介護事業の会社設立は司法書士に相談できる?

司法書士は、株式会社や合同会社の設立登記の専門家です。

介護事業の会社設立では、次のような事項についてご相談いただけます。

  • 株式会社と合同会社の選択
  • 商号の決定
  • 定款の事業目的
  • 本店所在地
  • 資本金の額
  • 取締役や代表取締役の選任
  • 株式の譲渡制限
  • 役員の任期
  • 定款の作成
  • 会社設立登記の申請

特に、介護事業では、会社設立時の事業目的が重要になります。

また、会社設立後に事業者指定を受けることを考慮して、設立時期や本店所在地などを決めることも大切です。

なお、介護事業者の指定申請については、行政書士が取り扱うことのできる業務です。

司法書士と行政書士が連携することで、会社設立から介護事業者の指定申請まで、必要な手続きを円滑に進めることができます。

12.まとめ|介護事業の会社設立は事業者指定を見据えた準備が重要

介護事業の会社設立では、一般的な会社設立とは異なる注意点があります。

特に重要なのは、次の10のポイントです。

  1. 介護事業者の指定には原則として法人格が必要
  2. 株式会社と合同会社のどちらにするか検討する
  3. 定款の事業目的を適切に定める
  4. 開業資金や運転資金を考慮して資本金を決める
  5. 役員構成と欠格事由を確認する
  6. 事業所の設備基準を確認する
  7. 必要な人員を確保する
  8. 会社設立と指定申請のスケジュールを調整する
  9. 会社設立後の各種届出を確認する
  10. 会社設立前から専門家に相談する

介護事業は、会社を設立すればすぐに始められるというものではありません。

事業者指定を受けるためには、人員・設備・運営基準など、さまざまな要件を満たす必要があります。

また、会社設立時の事業目的や役員構成などを適切に決めておくことで、後から変更登記が必要になる可能性を減らすことができます。

介護事業の会社設立では、単に会社を設立することだけでなく、介護事業を円滑に開始できる会社をつくることが重要です。

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