会社が合併すると消滅会社の従業員はどうなる?
組織再編
2026年10月31日
会社の合併を検討する際、経営者からよく質問されることの一つが、従業員の取扱いです。
「吸収合併によって消滅する会社の従業員はどうなるのでしょうか?」
「存続会社で引き続き雇用しなければならないのでしょうか?」
「従業員全員の同意が必要なのでしょうか?」
「給与や退職金はどうなるのでしょうか?」
会社が合併すると、消滅会社は法人格を失います。
しかし、会社が消滅するからといって、そこで働いていた従業員が自動的に退職するわけではありません。
結論から申し上げますと、合併によって消滅する会社の従業員の雇用契約は、原則としてそのまま存続会社に引き継がれます。
今回は、会社の合併によって従業員の雇用や労働条件がどのようになるのか、詳しく解説します。
1.吸収合併すると消滅会社の従業員はどうなる?
まず、吸収合併の基本的な仕組みを確認しましょう。
例えば、次のような会社があったとします。
- A株式会社:存続会社(従業員30名)
- B株式会社:消滅会社(従業員10名)
A株式会社がB株式会社を吸収合併することになりました。
この場合、B株式会社は合併によって消滅します。
しかし、B株式会社の従業員10名の雇用契約は、原則としてA株式会社に引き継がれます。
そのため、合併後はA株式会社に従来の30名とB株式会社から引き継いだ10名、合計40名の従業員が所属することになります。
これは、会社法第750条第1項に定められている「権利義務の承継」によるものです。
吸収合併では、消滅会社の資産や負債だけでなく、契約上の権利義務も包括的に承継されます。
このことを「包括承継」といいます。
従業員との雇用契約も、この包括承継の対象になります。
つまり、消滅会社の従業員は、退職して存続会社に再就職するのではなく、雇用契約がそのまま引き継がれるということです。
2.従業員の同意は必要なのか?
会社の合併に際して、消滅会社の従業員全員から同意を得る必要があるのでしょうか。
結論として、吸収合併による雇用契約の承継について、従業員一人ひとりの同意は原則として必要ありません。
これは、合併が包括承継だからです。
例えば、B株式会社の従業員10名のうち、1名が「A株式会社では働きたくない」と考えていたとしても、そのことだけで雇用契約の承継がなくなるわけではありません。
合併の効力発生日に、雇用契約は法律上当然に存続会社へ引き継がれます。
ただし、従業員の同意が不要だからといって、何も説明しなくてよいわけではありません。
合併によって勤務先の名称や経営体制、職場環境などが変わる可能性があります。
そのため、合併前に従業員に対して十分な説明を行うことが大切です。
また、合併に伴って労働条件を変更する場合には、別途、労働契約法などに従った対応が必要になります。
3.合併によって給与を下げることはできる?
合併によって消滅会社の従業員の給与を下げることはできるのでしょうか。
例えば、次のようなケースです。
A株式会社の従業員の月給が25万円、B株式会社の従業員の月給が30万円だったとします。
合併後、A株式会社の経営者が、
「同じ会社になるのだから、B株式会社の従業員の給与も25万円に統一したい」
と考えた場合、給与を下げることはできるのでしょうか。
原則として、合併したという理由だけで、一方的に給与を下げることはできません。
消滅会社の雇用契約は、労働条件も含めて存続会社に引き継がれるためです。
そのため、B株式会社で月給30万円だった従業員は、原則として合併後も月給30万円という労働条件が維持されます。
給与を引き下げる場合には、労働者との合意や、労働契約法が認める合理的な就業規則変更など、法的な根拠が必要になります。
合併したからといって、存続会社の給与体系に自由に変更できるわけではないという点に注意が必要です。
4.消滅会社の従業員の退職金はどうなる?
退職金についても、合併の際に問題となることがあります。
例えば、B株式会社では勤続20年以上の従業員に退職金を支給する制度があったとします。
一方、存続会社であるA株式会社には退職金制度がありません。
この場合、B株式会社の従業員の退職金はどうなるのでしょうか。
原則として、B株式会社の退職金に関する労働契約上の権利義務も、A株式会社に引き継がれます。
したがって、A株式会社に退職金制度がないという理由だけで、B株式会社の従業員の退職金に関する権利が当然に消滅するわけではありません。
また、合併の際に消滅会社の従業員へ退職金を必ず支払わなければならないわけでもありません。
合併によって雇用契約が終了するわけではないからです。
退職金の取扱いについては、合併前にそれぞれの会社の就業規則や退職金規程を確認し、必要に応じて制度を調整することが重要です。
5.勤続年数は引き継がれる?
消滅会社で長年勤務していた従業員の勤続年数はどうなるのでしょうか。
例えば、B株式会社で20年間勤務していた従業員がいたとします。
B株式会社がA株式会社に吸収合併された場合、その従業員の勤続年数はゼロになるのでしょうか。
そのようなことはありません。
合併によって雇用契約は継続するため、原則として消滅会社での勤続期間も引き継がれます。
したがって、合併前に20年間勤務していた従業員は、合併後も通算20年の勤続期間を有することになります。
勤続年数は、退職金や年次有給休暇などにも関係する重要な事項です。
合併後の人事管理において、誤って勤続年数をリセットしないよう注意が必要です。
6.合併を理由に従業員を解雇できる?
会社の合併によって、同じ部署の従業員が重複することがあります。
例えば、A株式会社にもB株式会社にも経理担当者が2名ずついたとします。
合併後は経理担当者が4名になります。
経営者としては、
「経理担当者は2名で十分なので、残りの2名を解雇したい」
と考えるかもしれません。
しかし、合併したという理由だけで、従業員を自由に解雇できるわけではありません。
労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効とされています。
人員削減を目的とする整理解雇については、一般的に次のような事情が検討されます。
- 人員削減の必要性
- 配置転換や希望退職の募集など、解雇を回避する努力
- 解雇対象者の選定の合理性
- 従業員への説明や協議など、手続きの妥当性
合併によって業務が重複したとしても、これらの事情を考慮せずに解雇することは問題となります。
会社の合併を検討する際には、従業員の配置や人員計画についても、事前に十分検討しておく必要があります。
7.合併後の就業規則はどうなる?
合併する会社同士で、就業規則が異なることは珍しくありません。
例えば、
A株式会社では、
- 始業時間:午前9時
- 終業時間:午後6時
- 年間休日:120日
B株式会社では、
- 始業時間:午前8時30分
- 終業時間:午後5時30分
- 年間休日:125日
という場合です。
合併したからといって、当然にA株式会社の就業規則をB株式会社の従業員全員に適用できるわけではありません。
消滅会社の従業員の労働条件は、原則として合併後も維持されます。
そのため、合併後の会社に異なる労働条件が併存することもあります。
もっとも、会社としては、将来的に労働条件や就業規則を統一したいと考えることもあるでしょう。
その場合には、従業員との合意や、就業規則の不利益変更に関する法的要件を確認する必要があります。
また、就業規則の作成・変更に伴う労働者代表等からの意見聴取や、労働基準監督署への届出が必要になる場合もあります。
8.合併後に従業員を別の部署や勤務地へ異動させることはできる?
合併によって事業所や部署を統合する場合、従業員の配置転換が必要になることがあります。
例えば、B株式会社の営業所を閉鎖して、A株式会社の本社に業務を集約する場合です。
この場合、B株式会社の従業員に対して、本社への異動を命じることができるのでしょうか。
配置転換の可否は、雇用契約の内容や就業規則、勤務地・職務の限定の有無などによって異なります。
会社に配置転換を命じる権限がある場合でも、その命令が権利の濫用に当たる場合には無効となる可能性があります。
特に、勤務地や職種を限定して雇用されている従業員については注意が必要です。
合併による組織再編であっても、従業員の労働条件や生活への影響を十分に考慮する必要があります。
9.合併と事業譲渡では従業員の取扱いが異なる
ここで注意したいのが、会社の合併と事業譲渡では、従業員の雇用契約の取扱いが異なるという点です。
会社の合併では、消滅会社の権利義務が包括的に承継されます。
そのため、従業員の雇用契約も原則として当然に引き継がれます。
一方、事業譲渡の場合は、譲渡する事業に関する権利義務を個別に移転する仕組みです。
従業員の雇用契約を譲受会社に移転するためには、原則として従業員本人の承諾が必要になります。
| 項目 | 合併 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 雇用契約 | 原則として当然に承継 | 個別に承継を行う |
| 従業員の同意 | 承継自体には原則不要 | 原則必要 |
| 労働条件 | 原則として維持 | 承継時の合意内容等による |
| 勤続年数 | 原則として通算 | 契約内容等により取扱いを確認 |
| 従業員の選別 | 原則としてできない | 承継対象の検討は可能だが法的制約あり |
このように、合併と事業譲渡では法律上の仕組みが大きく異なります。
会社の組織再編を検討する際には、税金や登記費用だけでなく、従業員の雇用についても考慮する必要があります。
10.消滅会社の役員は従業員と同じように引き継がれる?
従業員とは異なり、取締役などの役員については注意が必要です。
例えば、B株式会社の代表取締役が、吸収合併によって当然にA株式会社の取締役になるわけではありません。
取締役と会社との関係は、一般の従業員の雇用契約とは異なり、委任に関する規定に従う関係です。
消滅会社の取締役は、会社の消滅に伴い、その会社の取締役としての地位を失います。
存続会社の取締役に就任するためには、原則として存続会社において適法な選任手続きを行う必要があります。
なお、取締役でありながら従業員としての地位も有する兼務役員については、個別に検討が必要です。
11.会社の合併を進める際に経営者が注意すべきこと
会社の合併では、株主総会の承認や債権者保護手続、合併登記など、さまざまな法的手続きが必要になります。
しかし、合併を成功させるためには、法律上の手続きを適切に行うだけでは十分ではありません。
特に重要なのが、従業員への対応です。
合併によって会社が変わることに対して、不安を感じる従業員もいるでしょう。
「給与は下がらないだろうか」
「今までと同じ仕事を続けられるのだろうか」
「勤務地が変わるのではないか」
「退職金はどうなるのだろうか」
こうした疑問や不安に対して、経営者が丁寧に説明することが大切です。
また、合併後の労働条件や人事制度の調整については、社会保険労務士や弁護士などの専門家と連携して進めることも重要です。
合併は、単に二つの会社を一つにする手続きではありません。異なる会社で働いていた人たちが、一つの組織として働くことになるということです。
法律上の合併手続きが完了しても、従業員の理解や協力が得られなければ、合併の効果を十分に発揮できない可能性があります。
まとめ|会社が合併しても消滅会社の従業員は原則として引き継がれる
会社が吸収合併した場合、消滅会社の従業員の雇用契約は、原則として存続会社にそのまま引き継がれます。
重要なポイントをまとめると、次のとおりです。
- 消滅会社の従業員の雇用契約は、原則として存続会社に承継される。
- 雇用契約の承継について、従業員の個別の同意は原則として不要。
- 給与や退職金などの労働条件は、原則として維持される。
- 消滅会社での勤続年数も、原則として引き継がれる。
- 合併を理由に従業員を自由に解雇することはできない。
- 就業規則や人事制度の統一には、労働法上の配慮が必要になる。
会社の合併では、法律上の手続きだけでなく、従業員の雇用や労働条件についても十分な検討が必要です。
合併によって会社の経営基盤を強化することは重要ですが、そこで働く従業員が安心して仕事を続けられる環境を整えることも、経営者の大切な役割ではないでしょうか。
当事務所では、株式会社の吸収合併や新設合併など、会社の組織再編に関する登記手続きを取り扱っています。
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