会社設立で混同しやすい発起人と設立時役員の違い|会社設立メンバーの基礎知識

会社設立時に多くの方が混同しやすい論点のひとつに、発起人と設立時取締役の違いがあります。
どちらも会社設立の場面で登場するため役割が似て見えますが、実際には関与するタイミングや法的な立場、必要書類が異なります。これらを正しく理解していないと、書類不備や手続きのやり直し、関係者間の認識違いにつながるおそれがあるため注意が必要です。
この記事では、会社法に基づく発起人と設立時取締役の違いから、それぞれの役割、兼任の可否、必要書類などのポイントをわかりやすく解説します。

1. 発起人と設立時取締役・取締役の違い

会社設立のメンバーには、大きく分けて以下3つの立場があります。
・発起人
・設立時取締役
・取締役
それぞれの法的根拠や責任範囲を混同しないよう、まずは全体像を整理しましょう。

役職名 選任のタイミング 必要人数 役割・責任 選ばれ方
発起人 会社設立前 1名以上 定款の作成、設立時発行株式の引受け、出資の履行など、会社設立手続全体を進める 発起人として定款に記載され、設立手続を行う
設立時取締役 会社成立前~設立時 1名以上(取締役会設置会社は3名以上) 設立手続の調査を行い、会社成立後は最初の取締役として経営を担う 定款で定めるか、発起人が選任
取締役 会社成立後 1名以上 会社成立後の経営を担う 株主総会での決議

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1-1. 発起人と設立時取締役の違い

発起人は会社を設立する段階で責任を負うのに対し、設立時取締役は会社設立後の責任を担う点が大きな違いです。

発起人は、簡単にいえば「会社をつくる人」です。会社設立のために出資を行い、定款の作成や設立手続きを進める役割を担います。つまり、会社が成立する前の段階で中心的な責任を負う存在です。

これに対し、設立時取締役は「会社設立の手続きに関与し、会社成立後は取締役として経営を担う人」です。設立時取締役は、出資の履行が正しく行われたか、設立手続きに法令違反がないかなどを調査し、会社成立後はそのまま取締役として経営に関与します。

また、発起人は株式会社を設立するうえで少なくとも1名は必要となりますが、設立時取締役は1名以上、取締役会設置会社では3名以上が必要となります。

1-2. 設立時取締役と取締役の違い

設立時取締役と取締役の違いは、主に選任されるタイミングと手続きにあります。
設立時取締役は、会社設立の手続の中で、定款で定めるか、出資の履行完了後に発起人によって選任されます。これに対し、通常の取締役は、会社成立後に株主総会の決議によって選任されます。
また選任の流れが異なるため、必要書類にも違いがあります。設立時取締役は「就任承諾書」など設立時特有の書類が必要になります。一方、取締役は、原則として「株主総会議事録」などで選任を証明します。
どちらも会社成立後は取締役として会社経営を担う点では同じですが、選任のされ方や必要書類が異なる点は、実務上の重要なポイントとして押さえておきましょう。

2. 発起人とは何か

発起人とは、株式会社の設立に際して少なくとも1名は必要となり、設立時発行株式を引き受け、会社設立手続きを進める人です。発起人は誰かに「選任」される立場ではなく、発起人として定款に記載されその地位を有します。
発起人の主な役割としては、次のようなものがあります。
・定款の作成
・設立時発行株式の引受け
・出資の払込み
・設立時取締役などの選任
・設立登記に向けた各種手続の実施
このように、発起人は設立手続きの出発点を担う重要な存在であり、出資の不履行や手続きの不備があった場合には、責任を負う可能性があります。そのため、発起人になる人は、単に名前を貸すのではなく、実際に意思決定や出資に関与する立場の人であることが望ましいでしょう。

2-1. 発起人決定書とは何か

発起人決定書とは、会社設立の際に、発起人が決定した内容を記録するための書面です。ただし、すべての会社で必ず作成するわけではなく、定款で定めていない事項を発起人が決定した際に作成します。

たとえば、次のようなケースにおいて、発起人決定書や発起人の同意書を作成します。

・本店所在地の具体的な所在場所を定める場合
・その他、定款外の設立事項を決定する場合

このような事項を口頭だけで処理してしまうと、後から発起人の間で決定した内容が不明確になりトラブルになりかねません。そのため、必要な場面では発起人決定書を整備し、意思決定の経緯を明らかにしておくことが重要です。

また、複数の発起人がいる場合は、会社法上、発起人全員の同意が必要となる事項があります。そのため、どの事項について誰の同意が必要かを確認したうえで、適切に書面化しておくことが重要です。

さらに、発起人決定書は、押印や作成日付を明記し、定款・就任承諾書・登記申請書など他の書類と内容や日付に矛盾がないように整えることも重要です。 書類間の整合が取れていないと、設立手続で補正が必要になるおそれがあるためです

3. 設立時取締役とは何か

設立時取締役とは、会社成立時に最初に就任する取締役です。会社成立前の手続きが適正に行われたかを確認し、成立後はそのまま経営を担う立場となります。

設立時取締役の主な役割としては、次のようなものがあります。

・出資が行われたかの確認
・設立手続が法令や定款に違反していないかの調査
・会社成立後の経営判断や業務執行
・就任承諾書や印鑑証明など就任関係書類への対応

また、設立時取締役の選任にあたっては、法令上の細かいルールはないものの、取締役として会社の業務執行を担う立場になるため、経営判断能力や責任遂行能力が求められます。

上記の理由から、発起人や出資者の中から会社の中心となる人物を設立時に選ぶケースが多く見られます。

4. 発起人と設立時取締役は兼任できるのか

発起人と設立時取締役は、兼任が可能です。会社法上、発起人と設立時取締役の兼任を禁止する規定はなく、実務上も広く行われています。

たとえば、1人で株式会社を設立する場合、その人が発起人として定款を作成し出資を行い、そのまま設立時取締役に就任するケースが一般的です。また、複数人で設立する場合でも、発起人の中からそのまま設立時取締役を選任することが多く見られます。

ただ、発起人と設立時取締役は役割も責任の範囲も異なるため、兼任できるからこそ、それぞれの立場を区別して理解しておくことが大切です。

5.複数発起人の場合の意思決定の注意点

会社設立時に発起人が複数いる場合、意思決定のルールを事前に整理しておくことが重要です。特に、会社設立メンバーが複数いる場合は、誰が何を決めるのか、意見が分かれたときにどう調整するのかを明確にしておかないと、設立手続きが滞るおそれがあります。

例えば、発起人が2人いて、それぞれ50%ずつ出資した場合、意見が割れると重要な決定ができなくなります。これを「デッドロック(意思決定が止まる状態)」と呼びます。

具体的には、次のようなケースです。

・発起人Aと発起人Bが、それぞれ50%ずつ出資している
・本店所在地を決める際、Aは「新潟」、Bは「東京」を主張
・出資比率が同じため、双方が譲らなければ決定できない

このような場合、実務上は話し合いが長引くだけでなく、発起人同士の信頼関係に影響が生じることもあります。こうしたリスクを避けるためには、発起人間で意思決定のルールをあらかじめ定め、必要に応じて書面化しておくことが重要です。

たとえば、次のような点を事前に整理しておくとよいでしょう。

・多数決ルールを事前に決める
・意見が割れた場合の調整方法(第三者の仲裁など)を決める
・重要事項は最終的に誰が判断するのかを整理

実務上のルールを事前に文章化しておくことで、設立手続きや会社運営の混乱防止につながります。

6. 必要書類の整理|登記手続きで必要な就任承諾書・印鑑証明

会社設立の登記手続きでは、定款や払込み関係書類に加え、就任承諾書や印鑑証明書など、役割に応じた書類を準備する必要があります。特に、発起人と設立時取締役では立場や役割が異なるため、必要となる書類にも違いがあります。ここでは役割ごとに整理して確認しておきましょう。

6-1.発起人に関する主な書類

発起人は会社設立の主体として、以下のような書類を作成・準備します。

・定款(作成および認証)
・発起人決定書(設立時役員や本店所在地等の決定内容)
・払込証明書(出資金の払込みを証明する書類)
・通帳の写し(払込みの確認資料)

発起人に関する書類は、会社を設立するための意思決定と出資に関するものが中心です。実務上では定款で何を定めるかを確認し、定款に書かれていない事項は、必要に応じて発起人決定書などで補う形にするのがおすすめです。

6-2.設立時取締役に関する主な書類

設立時取締役は、主に以下の書類が必要になります。

・就任承諾書
・印鑑証明書
・本人確認書類(場合による)

設立時取締役に関する書類は、就任を承諾したことや本人確認に関するものが中心です。設立時に慌てないためには、発起人は設立手続きに関する書類、設立時取締役は就任に関する書類を担当すると整理しておくとわかりやすいでしょう。

6-3. 書類準備の留意点

必要書類は、どの会社でも一律ではありません。取締役会を設置するかどうか、代表取締役を置くかどうか、監査役を置くかどうかなど、会社の機関設計によって追加で必要になる書類があります。

また、書類を準備する際は、定款や発起人決定書、就任承諾書、登記申請書などの間で、日付や記載内容に矛盾がないかを確認することが大切です。氏名、住所、本店所在地、選任日・就任日などに不一致があると、訂正を求められる原因になります。

押印の有無や印鑑証明書の要否も書類によって異なるため、記載例に沿って確認しながら進めるのが安全です。

まとめ

今回は、発起人と設立時取締役の違いについて解説しました。このように、会社設立では、発起人や設立時取締役などの会社設立メンバーがそれぞれ異なる役割を担っています。

兼任は可能ですが、役割や必要書類は異なるため、違いを理解せずに進めると書類不備や手続きの遅れにつながるリスクもあります。

そのため、あらかじめ会社設立メンバーの役割分担を整理したうえで、必要に応じて専門家である司法書士に相談しながら進めることが大切です。会社設立の手続きや必要書類についてご不安な方は、ぜひ当事務所にご相談ください。