一度閉鎖された会社の登記は復活出来るのか?

あまり数は多くはないのですが、数年に一度、このようなご相談を頂くことがあります。

 

所有する不動産を売却しようとしたところ、昔経営していた会社名義のままだったことが発覚しました。
10年以上前、別の司法書士に『解散登記』を依頼して、そこまでは手続きしてもらったのですが、その後の手続きを放置してしまっていたところ、会社が勝手に閉鎖されていたのです。
どうしたら良いでしょうか???

 

不動産会社に売却の相談をし、打ち合わせを進めるうちに不動産の所有者が会社名義のままであることが発覚したそうです。

そして、会社名義の不動産を売買等する場合、会社の登記簿や法人印鑑証明書が必要となるのですが、会社の登記簿が閉鎖されていたことで会社の登記簿や法人印鑑証明書の取得が出来ないことも発覚し、どうしたら良いか分からずご相談に来られました。

会社をたたむ手続き

 

通常、会社をたたむ際には、2回登記手続きが必要となります。

(様々なケースがありますが、ここでは一般的な事例のみ記載しています。)

 

①解散登記

解散とは、事業を停止して法人格を消滅させるために申請する登記です。

この登記だけで会社が消滅するわけではありません。

また、この後に一定の手続きが控えていますが、それらを行う“清算人”という役目の人を決める必要があり、一緒に就任登記を行う事が多いです。

 

②清算結了登記

①解散登記の後、会社の借金や貸付金などの債権債務を整理する「清算手続き」を行います。この手続きを行わないと法人格を消滅させることは出来ません。

なぜなら、勝手に消滅されると困る人(会社にお金を貸している銀行といった債権者)を法律的に保護するため、清算手続きを済まさないと、会社を消滅させることができない法律

になっているからです。

 

 

数か月間、長いと年単位になりますが、この手続きが終わった後に清算結了登記を申請し、ようやく法人格が消滅します。

勝手に閉鎖されることもある

本来であれば、前述のとおり清算手続きをした後に『清算結了登記』を行わなくてはならないのですが、このお客様は2回目の手続きをしないまま長年放置していたそうです。

2回目の手続きを行わなければ法人格が消滅されないように思われますが、
勝手に登記簿を閉鎖されることもあるのです。

 

解散の登記をした後 10年以上にわたり何らかの登記がされない場合は、既に清算が結了されている確率が高いことから、登記官の職権により当該会社の登記記録を閉鎖することが認められています(商業登記規則81条1項1号)。

 

しかし、これはあくまで登記記録上の措置であって現実に法人格が消滅してしまうわけではありません。

職権により登記記録が閉鎖された場合でも、清算結了が完了していない以上、当該会社は清算手続中であると判断でき、法人格は消滅していないと解されます。

登記簿を復活する方法

 

さて、登記簿を復活するには、閉鎖されている事由によって方法が異なります。

 

それぞれ確認してみましょう。

 

A.登記官の職権により登記記録を閉鎖されてしまった場合

 

ご相談頂いたケースでは、放置されていたため登記官の職権により登記記録を閉鎖されていました。

このような場合、法務局に対して「清算未了の申出」をすることで登記記録を復活することが可能です。

 

※必要書類※
1.清算未了届書
2.委任状(代理人が申請する場合)
3.印鑑届書
4.代表清算人の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
5.  印鑑カード交付申請書

 

実は提出書類としてはこれだけです。

申出書提出して1週間程度で審査完了し、登記記録が復活されます。

ただし、実際に手続きを行っていくつか注意点がありました。

忘備録も兼ねて記載します。

 

 

①登記はオンラインで申請するのが主流だが、「清算未了の申出」は登記申請ではないため、紙媒体で提出する必要がある。

②清算未了申出書が申請書の代わりとなるので、代理人が申請する場合は、代理人の表示と押印が必要となる。

登記記録が閉鎖された際に併せて会社届出印も廃止と扱われてしまうため、清算未了の申出をする際は、同時に印鑑届出も改めて行う必要がある。

④代表清算人の住所が閉鎖登記記録と現在の住所異なっていた場合、同時に代表清算人の住所変更登記も必要となるが、清算未了届書は紙申請となるので、必然的に住所変更登記も紙申請になる。

 

この『登記官の職権により登記記録を閉鎖されてしまったケース』はこれで復活することが可能になります。

 

 

B.『清算結了登記』を行って閉鎖している場合

通常の流れのとおり、『清算結了登記』を経て会社をたたんだものの、清算手続きから漏れてしまった財産を発見したケース。

 

清算手続きによって処分していない不動産がある場合は、その会社の清算手続きは終わっていない事になりますので、清算結了登記は誤りとなります。

したがって、「清算未了の申出」ではなく、「清算結了登記の抹消」が必要になります。

 

※必要書類※
1.抹消登記申請書
2.残余財産を証する書面
3.  委任状(代理人が申請する場合)
4.印鑑届書
5.代表清算人の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
6.  印鑑カード交付申請書

 

抹消登記を申請する際には、
残余財産を証する書面」として、上申書及び財産が残っていることが分かる書面(ex.不動産の登記事項証明書、預金通帳の写し及び保険証書の写し等)が必要となります。

 

 

なお、上記は清算手続き時に処分していなっかった財産が残っていた場合のケースです。

 

清算手続きによって不動産の処分をしたが名義変更の登記だけをしていなかった場合はまた少し違います。

清算手続き時に処分されて会社のものではなくなっていたのであれば、名義変更の登記がされていなくても、実体的に清算手続きは終えられている事になるため、

上記のように清算結了登記を抹消する必要はなく、会社を代表する清算人であった者が名義変更の手続きをすることができます。

 

 

C.破産終結により閉鎖している場合

会社をたたむにも、理由が“債務超過”である場合は、清算結了登記ではなく、破産の手続をとります。

破産の手続きは、裁判所に破産申立てを行い、裁判所が選任した破産管財人が、裁判所の監督のもと、会社財産の売却をしたり、未払債権を回収したりするなどして資金を集めます。

そして、集まった資金を、債権額に応じて債権者に分配します。

 

そして配当がある場合は「終結」、ない場合は「廃止」となります。

どちらの場合でも破産手続きは終了し、裁判所から終結もしくは廃止の決定がなされます。

すると、
裁判所から登記所に対して「破産手続終結」の登記が嘱託裁判所の決定がされ、会社登記記録は閉鎖されます。

 

 

このように破産終結によって既に登記を閉鎖された会社において、残余財産を処分しなくてはならないケースもご依頼を頂きました。

実は、この場合でも【A.登記官の職権により登記記録を閉鎖されてしまった場合】と同じ手続き方法を取ることができるのです。

 

 

登記研究(平成9年3月17日付法務省民4第495号民事局第4課長回答)によると、

『破産終結による登記が嘱託され、当該登記用紙を閉鎖している場合において、~清算結了していない旨の申出があったときは、商業登記規則第81条第3項(旧78条2)の規定に準じて復活する

とあります。

※“商業登記規則第78条の2”というのが本来の通達文なのですが、改正により条文変更となりました。

 

 

商業登記規則第81条第3項
第一項の規定(解散の登記をした後十年を経過したとき。)により登記記録を閉鎖した後、会社が本店の所在地を管轄する登記所に清算を結了していない旨の申出をしたときは、登記官は、当該登記記録を復活しなければならない。

 

 

この登記記録に基づいて清算未了申出書を提出したところ、無事に受理され登記記録が復活されました。

※本ケースでは、清算人の就任登記がある会社のケースになります。

 状況によって手続きがかわりますので、ご相談ください。

 

まとめ

閉鎖された会社の登記簿を復活させたいというケースは多くはありませんが、数年に1件はご相談頂きます。

たたんだと思っていた会社の財産が発見したとなると、どのような流れで手続きを経て財産を処分したら良いのか、検討もつかないでしょう。

手続き自体や用意する書類の準備は簡単でも、それぞれのケースによってどのような手続きを行わなくてはならないのか、検討すべき事項が多くあります。

ぜひ、この様な事態に陥ってしまった場合には、司法書士法人トラストにご相談ください。
会社の手続きだけではなく、不動産の名義変更も一緒にお手続きすることが可能です。