組織再編において気を付けたい許認可(運送業)
吸収合併や会社分割などの組織再編を行う場合、基本的にはあらゆる権利義務を消滅する会社から承継することができます。
あらゆる権利義務とは、事業内容だけではなく、事業を行っている店舗や製品、従業員なども含むのですが、それらを承継することが出来るので、空白期間なく事業をスタートさせることができます。
ただし、事業を行うにあたり、許認可が必要な事業については注意が必要です。
許認可の種類により、当然に承継でき、新たに許認可を受けなくても引き続き事業を行えるケース、組織再編前に監督官庁に事前の届け出や認可を受けることが必要になるケースもあります。
最も気を付けたいのは、承継が認められず、改めて一から許認可を取得しなおさなくてはならないケースです。
さて、今回お客様から吸収合併登記のご依頼を頂きました。
手続きを進める上で様々な注意点がありますが、最初にお伝えしたとおり、許認可が必要な事業については注意が必要なため、漏れなく確認する必要があります。
例えば次の事業を行う法人の組織再編は、事前に国土交通大臣の認可を得る必要があります。
1.港湾運送事業
2.一般旅客定期航路事業
3.一般旅客自動車運送事業
4.一般貨物自動車運送事業
5.第二種貨物利用運送事業
主務官庁の認可が合併の効力要件となっている場合には、登記申請の際には、発行された認可書を添付書面として提出する必要があります。
ですので、認可が出されるまでの期間を考えて、余裕をもって吸収合併手続のスケジュールを組む必要があります。
先日、吸収合併のご依頼を頂きました。
吸収する会社と吸収される会社、どちらも親会社が100%株主の兄弟会社、そして双方介護福祉事業を営んでいる会社でした。
福祉関係においても様々な手続きが必要になりますが、今回はお客様の方で全てお手続きをされるとの事です。
(今回の件は、社会福祉法人ではなく株式会社になります。社会福祉法人の場合は別途様々な要件がありますのでご注意下さい。)
吸収される会社(消滅会社)では居宅介護支援を行っており、その業務の一環として” 通所介護施設(デイサービス)への送迎業務”が行われておりました。
実際に事業目的にも『高齢者、障害者の~及び送迎』と記載があります。
以前携わった別件で、『デイサービスにおいての送迎については、基本的には許認可を要しない※』ことを認識していました。
念のためお客様にも確認を行い、許認可を取得していない事を確認して手続きを進めていきます。
※デイサービスの送迎に関して※
デイサービスの送迎に関しては、厚生労働省と国土交通省によって道路運送法で規定されています。
一見、運送業許可が必要な案件に見えますが、平成18年に改訂された道路運送法の第40号によると、デイサービスの送迎は自家輸送扱いであることが認められています。
そのため、デイサービスの送迎業務のみに使用する車両は、緑ナンバー(営業用自動車ナンバー)である必要はなく、許認可の取得も要しません。
(国土交通省:道路運送法における許可又は登録を要しない運送の態様について(H30.3.30)より抜粋)
許認可が不要であることを確認したら、あとは登記に必要な書類を準備して申請するのみです。
しかし、実は落とし穴があって、このままでは申請が受理されないのです。
もし、このまま法務局に申請したら、きっとこのような電話が来るでしょう。
『目的上事業者』となるため、運輸局で
『合併の認可を要しない旨の証明書』を
取得申請して提出する必要があります。
これでは書類不備のため、
登記申請を取り下げてもらわなくてはなりません
登記官の言葉で出てきた『目的上事業者』と『合併の認可を要しない旨の証明書』とは
一体何なのでしょうか?
『合併の認可を要しない旨の証明書』の取得方法は簡単で、管轄の陸運局に所定の紙と添付書類を添えて申請すると発行してもらえます。
新潟の場合は、北陸信越運輸局に提出するのですが、添付書類は『履歴事項全部証明書の写しのみで大丈夫です。
ちなみに費用はかかりません。
しかし、発行までに1~2週間かかるので登記申請する際のスケジュールには注意が必要です。
『目的上事業者』とは、仮に定款に事業目的を掲げながら、実際には事業を行っていない者になります。
そもそも、事業目的とは、法律で定款の絶対的記載事項として定められており、定款に必ず記載する必要があります。
そして、履歴事項全部証明書にも『目的』として登記されます。
事業目的は、会社設立時点で開始する予定がなくとも、将来的にやろうとしている事業があるのであれば事業目的に記載することが多いのです。
弊所でも、会社設立のご相談を頂いたお客様にたいしては、将来的にやろうとしている事業も最初のうちに記載することをお勧めしております。
というのも、登記後に目的を追加、変更する場合は定款変更の決議が必要となりますし、なにより費用(登録免許税30,000円+司法書士報酬)がかかってしまいます。
つまり、お金と手間がかかってしまうのです。
事業目的の数に上限はありません。
また、事業目的に記載したからといって必ずその事業をしなければならないわけではありません。事業内容が多岐にわたる商社などでは、事業目的が数十件にのぼることもあります。
ただし、あまりに多く記載し、実際に行っている事業内容と定款の内容がかけ離れてしまうと、取引先や金融機関からあまり良い印象を持たれない恐れがあります。
例えば、融資を受ける際には、会社の謄本(全部事項証明書)の提出が必須です。こちらに目的も表示されます。また、設立したばかりの会社の創業融資の場合には、会社の資料も少ないため定款の提出を求められることもあります。
その際に、あまりにも目的が多すぎてバラバラだと、メインの事業は何か聞かれますし、なぜその目的を入れているのかなど、あまりいい印象を持たれないこともあります。
以上を考えて、現実的に事業目的の数は10件~15件程度がよいでしょう。
このように定款に事業目的を掲げながら、実際には事業を行っていない事業者は沢山あります。
したがって、
法務局としては事業目的上だけでは消滅会社が目的上事業者であるのか、
法律上の事業者であるのか区別が付かないので、
判断するための根拠資料として『認可証』もしくは
『合併の認可を要しない旨の証明書』を提出してください。
ということなのです。
今回は、許認可が必要ではない事業者が許認可に関する書類をわざわざ取得して提出しなくては登記申請が受理されないケースをご紹介致しました。
今回はあくまでも一例になります。
組織再編において、許認可に関する事項は気を付けなくてはならない点が多く、高度な知識が必要になります。
少し調べただけでは出てこない情報も多く、専門家でも気づかないことがあります。
特に、司法書士業務を行っている先生だけでは分かりえない事も沢山あるのです。
また、事前の準備や専門家等との連携が大切になってくるので余裕を持ったスケジュールで進める必要があります。
場合によってはスケジュールの組み方に失敗して、希望通りの登記が出来なくなってしまうなんてこともあります。
組織再編をご予定の方。
司法書士業務だけではなく行政書士業務まで、ワンストップでお手続き可能なトラストにご相談ください。